お盆に実家へ帰った際、親族の間で「この家、これからどうする?」という話が出た方も多いのではないでしょうか。
親から実家を受け継ぐとなった場合、その後の判断は「自分たちが住むか、人に貸すか、それとも売るか」という大きく3つの選択肢に分かれます。
どれを選んでも正解になり得ますが、判断を先送りしていると選べる道が減っていく点には注意が必要です。
相続した不動産には法律上・税制上の期限が設けられており、期限を過ぎてしまうと本来使えたはずの制度が使えなくなる可能性があります。
この記事では、名古屋エリアで実家を相続した方に向けて、判断の前提となる期限と、「住む・貸す・売る」を決めるための4つの判断軸を整理します。
相続後の対応でお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。
実家を相続したら|最初に押さえるべき3つの期限

相続した実家をどうするかを考える前に、まずは期間の制約について把握しておきましょう。
相続した不動産には、性質の異なる期限が3つ重なっています。
相続税の申告は10か月以内
相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行います。
ただし、すべての相続で申告が必要になるわけではありません。
相続税には基礎控除があり、その金額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
たとえば法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除額は4,800万円です。
遺産の総額がこの枠に収まる場合は相続税がかからないため、申告も原則として不要になります。
一方で、後述する小規模宅地等の特例を使って税額がゼロになる場合は、期限内の申告が適用の前提です。
「税金がかからないから何もしなくてよい」というわけではない点に注意しましょう。
出典
国税庁「No.4152 相続税の計算」
国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
相続登記は3年以内|違反すると過料
2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。
相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
正当な理由なくこれを怠ると、10万円以下の過料の適用対象となります。
また施行日より前に発生した相続も対象となる点に注意が必要です。
祖父母の代の名義のまま放置されている土地や建物がある場合、2027年3月31日までに登記を済ませる必要があります。
なお遺産分割の話し合いがまとまらず期限に間に合わないときは、相続人申告登記という制度があります。
自分が相続人であることを法務局に申し出れば、登記の義務を履行したものとみなされる仕組みです。
ただしこれは暫定的な措置であるため、その後に遺産分割が成立した場合は、成立の日から3年以内に名義変更の登記を行う必要があります。
出典
法務省「相続登記の申請義務化について」
売却で使える特例は3年後の年末まで
3つ目は、売る場合にだけ関わる期限です。
相続した実家を売却するとき、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。
この特例を使えるのは、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合に限られます。
さらに制度自体にも期限があり、対象となるのは2027年12月31日までの譲渡です。
3つの期限のうち、最も見落とされやすく、失うと金額的な影響が大きいのがこの期限です。
要件についても細かく定められているため、売却を選ぶ場合の確認事項として後ほど詳しく整理します。
出典
国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
「住む・貸す・売る」を決める4つの判断軸

「住む・貸す・売る」のどれを選ぶかは、判断の軸を先に決めておくことで整理しやすくなります。
ここでは、名古屋エリアで実家を相続した場合に関わってくる4つの軸を見ていきましょう。
ご自身の状況に当てはめながら読み進めてみてください。
昭和56年5月31日以前に建てられた建物かどうか
建築基準法の耐震基準は昭和56年6月1日に切り替わっており、これより前に建てられた建物かどうかによって住み続ける場合の安全性や売る場合の税制などが変わってきます。
たとえば売却時の3,000万円特別控除は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であることが対象要件のひとつです。
一方で、この時期の建物は現行の耐震基準を満たしていない可能性があり、「住む」「貸す」を選ぶなら耐震診断と補強工事の検討が前提になります。
つまり古い建物ほど、住む・貸すの場合はコストが増え、売る場合は税制上の後押しを受けやすいという逆方向の作用が働きます。
まずは登記事項証明書か固定資産税の納税通知書を確認し、建築時期をチェックしてみてください。
相続人の人数と意見の一致・不一致
相続人が複数いる場合、遺産分割がまとまらないまま共有名義にしておくと、売却するにも賃貸を行うにも全員の合意が必要となります。
さらに時間の経過によって相続人の誰かが亡くなった場合、権利者が枝分かれして合意形成はいっそう難しくなるでしょう。
また税制面でも人数が影響してきます。
相続人が3人以上いる場合、3,000万円特別控除の控除額は2,000万円までに下がります。
さらに、この特例には売却代金が1億円以下という要件があり、他の相続人が同じ敷地の一部を別途売却した分も合算して判定される仕組みです。
そのため兄弟それぞれが別々に動くと、気づかないうちに要件から外れてしまうおそれがあります。
誰が何をいつ売るのかは、早い段階で共有しておくようにしましょう。
3年以内に手放す意思があるかどうか
3,000万円特別控除の要件として、相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住のいずれにも使っていないことという項目があります。
つまり一度でも人に貸したり、自分や家族が住んだりすると、この特例は使えなくなるということです。
「とりあえず数年貸してみて、その後で売却を考える」という進め方は、税制上は不可逆な選択であるため、売る可能性を残しておきたい場合は貸す前に判断する必要があります。
逆に、売る意思がはっきりしないまま3年後の年末を迎えるくらいなら、賃貸で収益化する道を選ぶほうが合理的な場合もあるでしょう。
自分たちの住まいの計画と両立するかどうか
相続税の計算では、被相続人が住んでいた土地について、330㎡までの部分の評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」があります。
これは相続税の支払いのために住まいを手放す事態を避けるための制度で、生活の拠点を守ることが目的です。
配偶者や同居していた親族のほか、別居していた親族が取得する場合にも道は残されています。
ただし別居親族が使うには複数の要件をすべて満たす必要があり、その中には次の条件が含まれます。
- 被相続人に配偶者がいないこと
- 被相続人と同居していた相続人がいないこと
- 相続開始前3年以内に、自分や配偶者、三親等内の親族などが所有する家屋に居住したことがないこと
- その土地を相続税の申告期限まで所有し続けること
すでに自分名義の家に住んでいる場合は生活拠点が確保されているため対象外になる、というのがポイントです。
そのため実家を継ぐ見込みがある方は、相続が起きた時点の住まいによって扱いが変わる点に注意しましょう。
ここまでの4つの軸を整理すると、次のようになります。
| 「住む・貸す」に傾く場合 | 「売る」に傾く場合 | |
| ①建築時期 | 昭和56年6月1日以降の建物 | 昭和56年5月31日以前の建物 |
| ②相続人 | 単独相続、または意見が一致している | 複数で意見が分かれている |
| ③3年以内の意思 | 手放す意思がない | 手放す意思がある |
| ④自分の住まい | 実家に住む、または自分名義の家がすでにある | 自分の住宅取得を優先したい |
出典
国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
選択肢ごとに確認しておきたいポイント

判断軸で方向性が見えてきたら、次はそれぞれの選択肢における固有の確認事項を押さえていきます。
「住む」「貸す」「売る」の順に、費用面と制度面のポイントを見ていきましょう。
「住む」を選ぶ場合
実家に住む選択は、住宅ローンを組まずに済む点が最大の利点です。
ただし昭和56年5月31日以前に建てられた住宅の場合、耐震診断と補強工事の検討が出発点になります。
築年数の古い住宅は現行の省エネ基準を満たしていないケースも多く、耐震と断熱の両面で初期投資が必要になります。
お住まいの市区町村によっては耐震改修に関する補助制度が設けられている場合があるため、市区町村の建築担当窓口で確認してみてください。
また住み始めた後は、固定資産税や火災保険料、設備の更新費用などが継続して発生します。
住宅を維持するうえで長期的にどれくらいの費用がかかるのかについては、以下の記事で試算しています。
「貸す」を選ぶ場合
賃貸に出す場合は家賃収入が入り、かつ建物に人の手が入ることで劣化の進行も抑えられるというのが利点です。
一方で、貸し出すために家財の片づけや水回り・給湯器の更新、内装の原状回復といった準備が必要となり、建物の状態に比例して初期費用が膨らむ点には注意が必要です。
名古屋市内でも駅からの距離や周辺の賃貸需要には差があり、借主が決まらなければ維持費だけが出ていく状態となるため、投資額の回収見込みは事前に立てておきましょう。
そして前章でも触れたとおり、一度でも貸し出すと3,000万円特別控除は使えなくなります。
賃貸は収益を生む選択であると同時に、売却時の税制優遇を手放す選択でもある点を理解しておきましょう。
「売る」を選ぶ場合
売却を選ぶ場合は、3,000万円特別控除の要件を先に確認しておきましょう。
主な要件は次のとおりです。
- 相続または遺贈により取得した家屋とその敷地であること
- 昭和56年5月31日以前に建築され、区分所有建物の登記がされていないこと
- 相続開始の直前に被相続人が一人で居住していたこと
- 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住に使っていないこと
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 家屋を一定の耐震基準に適合させて売るか、取り壊して敷地だけを売ること
耐震基準への適合または取壊しについては、2024年1月1日以後の譲渡であれば、売却後、譲渡した年の翌年2月15日までに買主が耐震改修や取壊しを行った場合でも適用が認められます。
取壊しを選ぶ場合、名古屋市では「老朽危険空家等除却費補助金」が設けられており、危険度の評価に応じて工事費の3分の1(最大40万円)または3分の2(最大80万円)の補助を受けられます。
ただし対象となるのは市が「特定空家等」と判断した建築物に限られ、通常の空き家の解体には使えません。
なお売却して現金化した資産は、そのままの形で残すと相続税の課税対象になります。
将来のご自身の相続まで見据えるなら、現金以外の形で持つ選択肢も検討の余地があります。
出典
国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
名古屋市「名古屋市老朽危険空家等除却費補助金」
判断を先送りすると選択肢は減っていく

「今すぐ決めなくても良い」という判断も、実際にはひとつの選択です。
ここでは放置した場合に何が起きるのか、そして自分たちの住宅取得との関係について整理します。
放置した空き家に起きること
愛知県の空き家は43万3000戸、空き家率は11.8%で、いずれも過去最多の水準です(2023年10月1日時点)。
2018年の前回調査から0.5ポイント上昇しており、実家をどうするか決めかねている世帯が県内に相当数あることがうかがえます。
放置された空き家に対しては、行政の関与が段階的に強まっています。
2023年12月13日に施行された改正空家法により「管理不全空家等」という区分が設けられました。
そのまま放置すれば倒壊などのおそれが生じる「特定空家等」になりかねない状態の家について、市区町村長が指導や勧告を行える仕組みです。
住宅が建っている土地には固定資産税の住宅用地特例が適用され、税負担が軽減されています。
しかし「管理不全空家等」または「特定空家等」として勧告を受けると、この特例は解除されます。
住まなくなった家を放置していた結果、税負担が重くなるという事態が起こり得るわけです。
また「更地にして国に引き取ってもらう」という方法を考える方もいますが、相続土地国庫帰属制度は建物がある土地には使えないうえ、審査手数料や負担金がかかります。
このように、手放す場合であっても準備と費用がかかることを理解しておく必要があるでしょう。
実家を継ぐ予定の人が自分の家を買うとき
判断軸で触れたとおり、小規模宅地等の特例を別居親族が使う場合、相続開始時点でどこに住んでいたかが要件に関わります。
とはいえ、これは住宅取得を先送りすべきという話ではありません。
そもそもこの要件が関係するのは、被相続人に配偶者がおらず、同居していた相続人もいない場合に限られます。
自分のケースで影響があるのかを先に確認したうえで、住まいの計画を立てるという順序が現実的です。
実家の相続時期は選べませんが、自分たちの住まいをいつ、どこに、いくらで持つかは計画できます。
名古屋・愛知エリアでの予算の組み立て方とエリアごとの特徴については、以下の記事で解説しています。
出典
愛知県「愛知県の住宅・土地 令和5年住宅・土地統計調査」
国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について」
法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」
相続した実家に関するよくある質問
権利書が見つからないと相続登記はできませんか?
相続登記の申請に、権利書(権利証)は原則として必要ありません。
権利書は売買や贈与の際に、名義人が手放す意思を示すための書類です。
相続では名義人が既に亡くなっているため、戸籍謄本や遺産分割協議書が代わりの役割を果たします。
実家以外にも不動産があるか調べる方法はありますか?
2026年2月2日から始まった所有不動産記録証明制度を使えます。
法務局に請求すると、亡くなった方が登記名義人となっている不動産を全国分まとめた証明書が交付されます。
ただし請求書に記載した氏名・住所が検索条件となるため、登記簿上の住所が古いままの不動産は抽出されない場合がある点に注意が必要です。
兄弟の共有名義のままにしておいても問題ありませんか?
共有名義の場合、売却するにも賃貸に出すにも、共有者全員の合意が必要になります。
さらに共有者の誰かが亡くなると持分が次の相続人へ引き継がれ、甥や姪の代まで権利者が枝分かれしていきます。
連絡を取ること自体が難しくなるため、早い段階で話し合っておきましょう。
固定資産税は誰がいつから払うことになりますか?
その年の1月1日時点で、固定資産課税台帳に所有者として登録されている人に課されます。
年の途中で所有者が亡くなった場合、その年の納税義務は相続人が引き継ぎます。
翌年以降は相続登記で新たに名義人となった人が納税義務者となるため、遺産分割が済むまでは誰がまとめて支払うのかを決めておくと安心です。
出典
法務省「所有不動産記録証明制度について」
法務省「相続登記の申請義務化について」
まとめ
- 相続した実家には「相続税10か月」「相続登記3年」「売却特例は3年後の年末」という3つの期限があり、先送りするほど選べる道が減る
- 一度でも人に貸すと3,000万円特別控除が使えなくなるため、売る可能性を残すかどうかを貸す前に決める必要がある
- 実家を継ぐ見込みがあるなら、自分たちの住まいの計画とあわせて考えることが大切
実家をどうするかは、建物の状態と家族の事情、そして自分自身の住まいの計画を踏まえて判断する必要があります。
まずは期限から逆算し、動かせるものと動かせないものを切り分けてみてください。
判断の軸さえ決まっていれば、迷う時間はぐっと短くなるでしょう。





















