今年の不動産市場は全体的に堅調でしたが、さまざまなコスト増が住宅流通に影響を与えるなど、いくつかの特徴的な動きが見られました。
本記事では、この1年を振り返りながら、2025年の不動産市場がどう変化するのかを考えてみましょう。
【この記事で分かること】 ・2024年の不動産市場で顕著だった「三極化」の詳細と、地域ごとの価格動向が分かります。 ・建築コストや用地不足が新築住宅の供給減少に与えた影響を解説しています。 ・インバウンド需要の回復によるホテル投資の活性化やその背景が理解できます。 ・2025年に予想されるローン金利の上昇や市場動向への影響について詳しく知ることができます。 |
不動産価格の動向

2024年の不動産価格は、全体的に上昇傾向を維持しました。
これは国土交通省の不動産価格指数でも明らかになっており、前年と比較して2~6ポイント程度高くなっています。
【不動産価格指数(住宅総合)】※()内は前月比
2023年 | 2024年 | |
1月 | 133.4(▲0.3) | 137.5(1.0) |
2月 | 133.8(0.3) | 136.5(▲0.7) |
3月 | 134.0(0.2) | 137.2(0.5) |
4月 | 133.9(▲0.1) | 138.2(0.8) |
5月 | 133.6(▲0.3) | 137.8(▲0.3) |
6月 | 136.4(2.1) | 138.8(0.7) |
7月 | 134.4(▲1.4) | 137.2(▲1.1) |
8月 | 134.5(0.0) | 140.5(2.4) |
9月 | 135.7(0.9) | 未公表 |
10月 | 136.2(0.4) | 未公表 |
11月 | 135.7(▲0.4) | 未公表 |
12月 | 136.1(0.3) | 未公表 |
しかし、この価格上昇は一様ではありません。
「住宅地「戸建住宅」「マンション」の内訳をみると、①マンションが最もその上昇率が大きく、10ポイント以上の上昇も見られます。
また、②都心や利便性の高い地域では価格が上昇する一方、③地方や郊外では価格が下がっている可能性が指摘されています。この「三極化」により、物件間の価格差が拡大している状況です。
不動産市場に見られた特徴
2024年の不動産市場は、時代のムーブメントが反映され、住宅購入や投資需要の動向にも変化が見られた年でした。「物価上昇」「インバウンド」「アフターコロナ」というキーワードが市場にどのような影響を与えたのでしょうか。
それぞれの要因が市場のどこに作用したのか、詳しく見ていきましょう。
住宅市場の特徴
新設住宅の着工戸数の減少が続く中、2024年は既存住宅の流通量比率が増加しました。
新設住宅の着工数は、令和2年のコロナ禍による異例の状況を除くと、年々徐々に少なくなっていることが分かります。

地価の上昇が見られる中で、追い打ちをかける建設資材や人件費の高騰。そして、2025年4月以降に着工する建築物への「省エネ基準適合の義務化」。
これにより新築住宅の価格上昇は免れられず、既住宅の流通量押し上げに寄与したと考えられます。
投資市場の特徴
2024年の投資市場では、オフィスと賃貸住宅セクターが特に注目を集めました。単身者の増加や都心への一極集中により、都心部の住宅賃貸需要がさらに高まると予想されています。また、アフターコロナの影響でリモートワークと対面ワークの在り方が再考され、新たな働き方に対応するオフィス需要の変化も見られました。
一方で、インバウンド需要の回復に伴い、ホテル投資が活性化。訪日外国人の増加が期待される中、特に海外投資家の関心が高まっています。引き続き、これらの市場動向を的確に捉え、最新情報を追い続ける必要がありそうです。
不動産市場を取り巻く環境
2024年、住宅市場に影響を与えると予想された「金利の上昇」。また、物価上昇による家計の圧迫とともに、不動産業界にも影響を与える「建築コストの増加」。
景気回復の兆しは緩やかですが、今年の不動産市場はどのような推移を辿ったのでしょうか。本章では、これらの要素が住宅市場に及ぼした影響について解説します。
金融政策はわずかな金利上昇
2024年、不動産市場において日銀の金融政策の修正が注目されています。長期金利の上昇を容認する姿勢により、住宅ローン金利がわずかに上昇する動きが見られました。たとえば、大手都市銀行では、既存契約者における変動型の住宅ローン金利を0.15%ほど引き上げています。
とはいえ、日銀は急激な金融引き締めを避けているため、金利の上昇幅は小さく、市場への影響も限定的です。そのため、住宅を購入したい人への負担はそこまで大きいものではありません。今後も金利の動向に注目しつつ、不動産市場の安定を見守る必要があります。
物価高による建築コストの高止まり
2024年の不動産市場では、原材料価格の上昇や深刻な人手不足が影響し、建築コストが高止まりしています。⼀般財団法⼈ 建設物価調査会が公表する「建築費指数」を見ても、その動向は顕著に表れています。


さらに、現場では「建築費指数」に表れないほどのコスト高騰を実感するケースも少なくありません。限られた労働力の争奪戦が激化し、建設現場での人件費が大幅に増加しています。
また、帝国データバンクの調査によると、2024年1月から10月までに建設業で発生した倒産件数は1,566件にのぼりました。その大きな要因として挙げられているのが、やはり「人手不足」です。現場での労働力不足は深刻さを増しており、この状況を打開するためにはさらなる人件費の上昇が避けられない状況です。
こうしたコストの高止まりは、建築業界だけでなく不動産市場全体にも影響を与えており、開発計画や新築物件の供給にも影響を及ぼしています。
景気回復の兆しは緩やか
「アフターコロナ」への移行が進む中、景気の回復は緩やかなペースで進行しています。2024年4~6月期の実質GDP成長率は前期比+0.8%(年率換算+3.1%)を記録し、個人消費も5四半期ぶりに増加しました。賃金の上昇や夏のボーナス支給増加、自動車の生産再開などが主な要因です。
この景気回復は、不動産市場にもいくつかの影響を及ぼします。まず、個人消費の増加は住宅購入やリフォーム需要の押し上げに寄与します。特に、可処分所得の増加に伴い、住宅ローンを組む際の購買力が改善し、住宅市場の活性化が期待されるでしょう。
一方で、依然として生活防衛の意識が高く、物価高により高額物件や投資用不動産への需要は慎重な動きが続く可能性があります。
今後の展望
2024年の状況を踏まえ、2025年にはどのような変化が起こるのでしょうか。予想される4つの市場動向について詳しく解説します。
不動産価格における「三極化」進行の恐れ

今後、不動産価格は地域ごとに明確な「三極化」が進むと予測されています。三極化とは、具体的に以下の3つの分類が見られることです。
- 価格を維持・上昇する地域
- 緩やかに下落する地域
- 限りなく無価値の地域
これから不動産を保有する買主側の立場としては、上記1の地域で物件を取得したいと思うでしょう。しかし、1に該当するエリアは都心部や一部の観光地のみで、さまざまなメディアで9割の物件価格が下落すると言われています。
これは人口減少や少子高齢化など、日本の持つ危険な社会現象が背景にあります。
ローン金利上昇の影響が本格化する可能性
2024年には、都市銀行における住宅ローンの変動型金利は0.15%程度の上昇幅に抑えられましたが、2025年にはさらに上昇する可能性が予想されています。この影響で、一般的な世帯年収では、都心部の新築物件がますます手の届かない存在となる懸念があります。
特に、東京23区などマンション価格が2006年の約2倍に達し高止まりしている現状では、新築マンションの購入者が富裕層に限られる傾向が強まりそうです。
用地不足による新築供給の減少
首都圏ではマンション用地とホテル用地の争奪が激化し、採算性の高いホテルが優位に立つ中、新築マンションの供給が大幅に減少しています。実際に、不動産経済研究所(東京・新宿)が発表したデータによると、2024年8月の首都圏新築マンション発売戸数は前年同月比50%減の728戸と、供給不足が顕著です。
一方、地方では先述の三極化による人口減少や需要の偏りから、新築マンション計画が減少し、「建てても売れない」リスクを懸念する動きが広がっています。これにより、首都圏・地方ともに新築供給が減少し、物件の希少性と価格上昇が進む可能性があります。
継続的なホテル投資の活発化
インバウンド需要の高まりを背景に、ホテル投資は活発さを増すでしょう。観光庁のデータでは、訪日外国人旅行者数が2019年同月比を大幅に上回る水準を記録していますが、この勢いはしばらく続く見込みです。


実際、円安による割安感が訪日需要を後押しし、都市部のホテル稼働率が上昇中です。高級ホテルや中規模ホテルへの投資が進む一方で、自炊が可能な民泊も訪日外国人から人気を集めています。
また、日本のホテル市場への参入は投資家だけに限りません。2024年には「ハイアット ハウス 東京 渋谷」や「キャノピーbyヒルトン大阪梅田」、「ヒルトン京都」などの外資系ホテルが次々と開業しました。さらに、2023年には「ブルガリホテル東京」や「ホテルインディゴ東京渋谷」などがオープンしており、2025年以降も多くの外資系ホテルの進出が予定されています。
国内外から注目を集める日本のホテル投資は、2025年以降もしばらくこの勢いを保ち続けるでしょう。
まとめ

2024年の不動産市場は堅調さを維持しながらも、建築コストや用地不足といった課題に直面しました。不動産価格は都心部を中心に上昇した一方で、地方や郊外では価格下落が進む「三極化」の傾向が顕著です。また、新築供給の減少やホテル投資の活発化が市場構造に変化をもたらしました。
2025年に向けては、ローン金利の上昇や用地不足の影響がさらに顕在化し、不動産購入のハードルが高まることが予想されます。一方で、インバウンド需要の増加を背景に、ホテル投資の勢いは続きそうです。
これらの動向を踏まえ、不動産市場の流れを敏感に察知することが重要となるでしょう。