2026年9月、第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)の開幕を控え、名古屋エリアの宿泊需要への注目が高まっています。
「自宅や所有する物件を民泊として活用できないか」と考えている方もいるのではないでしょうか。
民泊は正式には「住宅宿泊事業」と呼ばれ、2018年に施行された住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)のもとで運営されます。
ホテルや賃貸経営とはルールが異なる部分も多く、始める前に確認すべき法律や地域の規制も少なくありません。
この記事では、名古屋・愛知エリアで民泊を検討している方に向けて、法律の基本から名古屋市独自の規制、収支を考える際の現実的な視点まで整理します。
どのように始めるべきか迷っている方はぜひ参考にしてみてください。
アジア大会を前に注目が高まる名古屋の民泊市場
第20回アジア競技大会は2026年9月19日から10月4日まで、愛知・名古屋を舞台に開催されます。
アジア45の国と地域が参加予定で、瑞穂公園陸上競技場をメイン会場に41競技が行われます。
日本でのアジア競技大会開催は、1994年の広島大会以来、実に32年ぶりのことです。
大会期間中は国内外から多くの観客・関係者が名古屋を訪れると見込まれており、宿泊施設の需要が一時的に高まることが予想されます。
こうした背景を受けて、名古屋エリアでの関心が高まっているのが「民泊事業」です。
観光庁の公表データを見ると、名古屋市内の民泊(住宅宿泊事業)の届出住宅数は735件(令和8年3月13日時点)に上っています。
愛知県内全体(名古屋市を除く)でも206件が届け出されており、両者を合わせると愛知県全体で合計951件の民泊が稼働していることになります。
また同庁の宿泊実績データ(令和8年2〜3月分)によると、愛知県の届出住宅あたり延べ宿泊者数は68.6人泊で全国3位にあたる水準です。
これは北海道(71.5人泊)、福岡県に次ぐ数値であり、名古屋・愛知エリアが民泊の需要地として全国的に見ても上位に位置することを示しています。
ただし、アジア大会による需要は開催期間中の一時的なものであり、大会終了後は通常の水準に戻ることを前提に、中長期的な収支計画を立てることが不可欠です。
出典:国土交通省観光庁「住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況一覧」/「住宅宿泊事業法の施行状況」
民泊を始めるための基本ルールと手続き

民泊(住宅宿泊事業)とは何か
民泊とは、旅館業法の許可を持たない一般の方が、宿泊料を受け取って自宅などの住宅に人を泊める事業のことです。
2018年6月に施行された住宅宿泊事業法のもとでは、都道府県知事等への届出を行うことで、旅館業法の許可なく民泊を始めることができます。
ただし、年間で人を宿泊させることができる日数は180日が上限と定められています。
この180日という日数は、毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの1年間で算定され、届出住宅ごとにカウントされる仕組みです。
なお日数制限を受けたくない場合は、旅館業法に基づく「簡易宿所」として許可を取得する方法もあります。
ただし、この場合は消防設備や衛生基準などの部分で住宅宿泊事業法よりも厳格な要件をクリアする必要があります。
出典:国土交通省観光庁「住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?」
届出の流れと事業者の義務
名古屋市で民泊を始める場合、届出が受理されるまでの流れはおおむね以下の通りです。
- 保健所への事前相談
- 消防署への消防法令適合通知申請・実地検査
- 近隣住民への事前周知(個別配付または説明会の開催)
- 保健所への届出
名古屋市は他の自治体と比較して書類審査が厳格であり、通常3〜5ヶ月程度の期間がかかることを前提にスケジュールを組む必要があります。
また、届出後も事業者にはさまざまな義務が課され、衛生の確保・宿泊者名簿の作成・騒音防止のための案内・苦情対応(原則30分以内に現場へ到着)・2ヶ月ごとの宿泊実績の定期報告などが代表的なものです。
なお、家主が届出住宅に不在となる場合は、国土交通大臣に登録された「住宅宿泊管理業者」への管理業務の委託が義務となります。
出典:名古屋市「住宅宿泊事業(民泊)届出」
マンション・賃貸住宅で民泊を始める場合の注意点
マンションの場合は、管理規約に民泊を禁止する規定がないかを事前に必ず確認しておきましょう。
なお届出時点では問題なくても、その後の規約改正で民泊が禁止された場合、事業の継続ができなくなるリスクがある点に注意が必要です。
また賃貸住宅で民泊を運営する場合は、貸主から民泊を目的とした転貸の承諾を得ている必要があります。
出典:国土交通省観光庁「よくあるご質問」
名古屋市の条例が収益計画を左右する

住居専用地域では平日の営業が禁止される
名古屋市では、住宅宿泊事業法の規制に加えて独自の条例(「名古屋市住宅宿泊事業の実施の制限に関する条例」)を定めています。
条例の対象となるのは、以下の住居専用地域です。
- 第1種低層住居専用地域
- 第2種低層住居専用地域
- 第1種中高層住居専用地域
- 第2種中高層住居専用地域
これらの地域については、月曜日の正午から金曜日の正午まで民泊の営業が禁止されています(ただし、祝日前日の正午から当該休日の翌日の正午までは営業可能)。
そのため住居専用地域の物件では、事実上週末・祝日のみの営業となり、年間の稼働可能日数は約120日程度にとどまります。
なお、同条例により工業地域・工業専用地域では民泊の届出自体が認められないため注意が必要です。
商業地域や近隣商業地域には条例による日数制限がなく、法律上の180日をフルに活用できます。
全国で広がるゼロ日規制の動き
名古屋市独自の条例による規制に加えて、現在は全国レベルでの規制強化の動きも進んでいます。
2026年6月17日、観光庁の村田茂樹長官は記者会見において、自治体が条例で民泊の年間営業日数を「0日」に設定し、事実上の全面禁止を行うことを容認する方針を表明しました。
これが「ゼロ日規制」と呼ばれる動きです。
観光庁はこれまで、民泊の普及・促進の観点からゼロ日規制を認めてきませんでしたが、訪日外国人の増加に伴う騒音・ごみ問題などのトラブルが急増したことを受け、方針を転換しました。
この通知は「技術的助言」という形式で、自治体への法的拘束力はありません。
ただし、これまで「国が認めていないから」という理由でゼロ日規制に踏み切れなかった自治体にとっては、条例化を進める根拠となります。
通知を受けて、住居専用地域や学校・教育施設の周辺でゼロ日規制を条例に盛り込む自治体が今後増える可能性もあるでしょう。
なお、名古屋市がゼロ日規制を導入するという正式な方針は、2026年6月現在、発表されていません。
ただし、全国的な規制強化の流れは名古屋市にも無関係ではなく、今後の条例改正の動向を注視することが必要です。
参考:観光庁「住宅宿泊事業法の施行状況」
収益計画を立てる際に押さえておくべき視点
民泊の収益は「稼働日数×宿泊料×稼働率」で決まります。
住居専用地域では実質120日前後が上限となるため、同じ物件を通年で賃貸に出す場合と比べて収入の上限が構造的に低くなる点を最初に認識しておく必要があるでしょう。
また民泊には、賃貸経営にはないコストが発生します。
消防設備の整備・近隣住民への事前説明・管理業者への委託費・宿泊のたびに発生する清掃費・寝具や備品の維持費などが代表的なものです。
特に家主不在型の場合は管理業者への委託が義務となるため、これらのコストは必ず収支に織り込む必要があります。
さらに、民泊は空室リスクがゼロになることがないという点でも賃貸と異なります。
賃貸であれば入居者がいる限り毎月一定の家賃収入を見込めますが、民泊は予約が入らなければ収入が生まれません。
アジア大会のような特需期に高い稼働率が期待できる反面、閑散期との差が大きくなりやすい事業形態であることを踏まえたうえで、年間を通じた収支シミュレーションを行うことが不可欠です。
参考:国土交通省観光庁「住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?」
民泊に向いている物件・向いていない物件

物件の条件によって、民泊の収益ポテンシャルは大きく変わります。
ここでは、エリア・用途地域・建物の種別という3つの観点から整理してみましょう。
エリア・立地の観点
民泊の需要は、観光スポットや主要駅の周辺に集中する傾向があります。
名古屋エリアであれば、名古屋城や熱田神宮の周辺、名古屋駅・栄駅から徒歩圏内のエリアが集客面で有利です。
アジア大会の競技会場が集中する瑞穂公園周辺も、大会期間中は特に需要が高まることが見込まれます。
逆に、観光地や主要駅から離れたエリアでは、稼働率を安定的に確保することが難しくなるでしょう。
用途地域の観点
前述のとおり、名古屋市内の住居専用地域では平日の営業が禁止されており、年間稼働可能日数が約120日前後に制限されます。
商業地域・近隣商業地域であれば条例による日数制限がなく、法律上の180日を最大限活用できるため、収益化の観点からは有利といえるでしょう。
ただし、商業地域の物件は一般的に取得コストが高くなる傾向があるため、購入や賃借の段階でコストと稼働日数のバランスを慎重に検討することが重要です。
物件を探す段階で用途地域を確認するには、各市区町村が公開している用途地域マップを活用する方法が便利です。
建物の種別・構造の観点
戸建て住宅・マンション・アパートのいずれでも民泊の届出は可能ですが、それぞれに注意点があります。
- マンション:管理規約で民泊を禁止しているケースが多いため規約の確認が必要
- 賃貸物件:貸主の承諾が必要となるものの、民泊用途での転貸を明示的に認めている物件は多くない
- 戸建て住宅:規約の制約を受けにくい反面、住居専用地域に立地するケースが多く、用途地域の確認が不可欠
「立地」「用途地域」「建物の種別と規約」の3点を踏まえたうえで、民泊に適した物件かどうかを判断することで、後悔しない物件選びを行えるでしょう。
名古屋で民泊を始める前によくある質問
Q. 名古屋市で民泊を届け出るには何から始めればよいですか?
住居専用地域かどうかによって営業できる日数が大きく変わるため、まずは物件の用途地域を確認することが出発点です。
用途地域の確認後、保健所への事前相談を経て、消防署への適合通知申請、近隣住民への事前周知という流れで準備を進めます。
名古屋市は審査が厳格なため、届出受理まで3〜5ヶ月程度を見込んでスケジュールを組むことが重要です。
Q. 住居専用地域の物件でも民泊はできますか?
届出自体は可能ですが、名古屋市の条例により平日(月曜正午〜金曜正午)の営業が禁止されています。
実質的に週末・祝日のみの営業となるため、年間稼働可能日数は約120日前後にとどまります。
収益計画を立てる際は、この制限を前提に試算することが不可欠です。
Q. マンションで民泊を始めることはできますか?
管理規約で民泊が禁止されていなければ、届出は可能です。
ただし、禁止規定がない場合でも管理組合が禁止の方針を持っている場合は届出ができません。
また、届出後に規約改正で民泊が禁止された場合は事業を継続できなくなるリスクがある点に注意が必要です。
Q. アジア大会の期間だけ民泊を始めることはできますか?
届出が受理されていれば、期間を限定して運営することは可能です。
ただし、名古屋市での届出には3〜5ヶ月程度かかるため、大会開幕(9月19日)に間に合わせるには早急な準備が必要です。
届出が完了していない状態で宿泊料を受け取ると法令違反となるため、順序を誤らないよう注意しましょう。
Q. 民泊と普通の賃貸、どちらが収益は高いですか?
一概にどちらが有利とは言えません。
民泊は繁忙期に高単価での運営が期待できる反面、年間の営業日数に上限があり、空室時の収入はゼロになります。
賃貸は単価が低くなりがちですが、入居者がいれば毎月安定した収入を得られます。
物件の立地・用途地域・管理にかけられる手間などを総合的に考慮したうえで、どちらの活用方法が自分の状況に合っているかを判断することが大切です。
Q. ゼロ日規制が導入されたら、名古屋の民泊はどうなりますか?
ゼロ日規制とは、自治体が条例で民泊の年間営業日数の上限を「0日」に設定することで、該当エリアでの民泊を事実上禁止する規制手法です。
2026年6月、観光庁が自治体によるゼロ日規制の条例化を容認する方針を表明しました。
ただし、この方針は「技術的助言」という形式であり、各自治体が条例化するかどうかは個別の判断に委ねられます。
名古屋市が同規制を導入するという発表は2026年6月現在ありませんが、今後の動向によっては住居専用地域を中心に営業が全面的に禁止される可能性も否定できません。
民泊を検討している方は、名古屋市の公式サイトや観光庁の情報を定期的に確認することをお勧めします。
まとめ
- 名古屋市の住居専用地域では条例により営業日が週末・祝日のみに限られるため、実質的な稼働可能日数は年間約120日前後となる
- 名古屋市での届出手続きは審査が厳格で3〜5ヶ月程度を要するため、アジア大会需要を見込む場合も含め、早めの準備が欠かせない
- 収益化の可否は、用途地域・立地・建物の種別と規約という3点の組み合わせによって大きく変わる
民泊は手軽に始められる印象を持たれることもありますが、法令・条例・管理義務を正しく理解したうえで事業設計を行う必要があります。
名古屋・愛知エリアで民泊を検討している方は、まず物件の用途地域と管理規約を確認することから始めることが、後悔しない判断への第一歩です。



















