事業用定期借地権はご存知でしょうか。借地権は土地を借りて使うことができる権利のことですが、その用途を事業用に限ったものを指します。新型コロナウイルス感染症拡大に伴いリモートワークも普及し始め、都心に住んで会社に通勤するというライフスタイルを見直して地方で起業することを考えておられる方もいらっしゃると思います。事業用の土地を探す、使わない土地を貸したいときの選択肢としてこの事業用定期借地権があります。ここでは事業用定期借地権とはどのような権利のことか、どのようなことに使うことができるのか、メリットとデメリットについてご紹介します。
事業用定期借地権とは?
事業用定期借地権というのは事業用の土地を借りて使うことができる権利のことで借地借家法に規定されている権利です。次のような特徴があります。
・用途は事業用に限り、居住用には使えない
・期間は10年以上、50年未満
・公正証書による契約が必要で以下の3つの特約を結ぶ必要がある(30年以上の場合)
1.契約の更新をしない
2.存続期間の延長をしない
3.建物の買取請求をしない
(10年以上、30年未満の場合は特約を結ばなくても自動的に定期借地権の内容が適用され、上記の特約の内容が適用され、公正証書による契約でなくてもよい)
もともとの借地借家法では借りた側の権利を保護することに重きを置いていました。借りた側が請求すればかならず更新する必要あるなど、土地を貸す側に不利となるような状況が生じたために現在の定期借地権の規定ができました。事業用定期借地権とは事業用に使うための土地をある程度の長期間貸す、借りることができ、原則として土地を更地にして返す、返してもらえるようにするための法律です。
借地権の種類と内容
借地権の種類 | 存続期間 | 用途制限 | 契約の方法 | 契約の終了 | 契約終了時の建物の取り扱い | |
定期借地権 | 一般定期借地権(法22条) | 50年以上 | 用途制限なし | 公正証書等の書面にて行う・契約の更新をしない・存続期間の延長をしない・建物の買取請求をしないという3つの特約を定める | 期間満了による | 原則として借地人は建物を取り壊して土地を返還する |
事業用定期借地権(法23条) | 10年以上50年未満 | 事業用建物所有に限る(居住用は不可) | 公正証書による設定契約をする・契約の更新をしない・存続期間の延長をしない・建物の買取請求をしないという3つの特約を定める | 期間満了による | 原則として借地人は建物を取り壊して土地を返還する | |
建物譲渡特約付借地権(法24条) | 30年以上 | 用途制限なし | 30年以上経過した時点で建物を相当の対価で地主に譲渡することを特約する(口頭でも可) | 建物譲渡による | ・建物は地主が買取る・建物は収去せず土地を返還する・借地人または借家人は継続して借家として住むことができる | |
普通借地権 | 30年以上 | 用途制限なし | 制約なし(口頭でも可) | ・法定更新される。・更新を拒否するには正当事由が必要 | ・建物買取請求権がある買取請求権が行使されれば建物はそのままで土地を明け渡し、借家関係は継続される |
どのようなときに使うの
事業用定期借地権は事業用の土地、ということで住居には向かない、使えない土地を事業用に使用するために借りる、貸すことできるようにすることを目的にした法制度です。住宅地ではない幹線道路に面する広い土地にショッピングセンターを建てる、ホテルを建てる、倉庫を建てる、工場を建てるというような場合に使います。一方、アパートやマンション、老人ホームなどは居住用となるため事業用定期借地権は使えません。ある程度長い期間の事業を想定して土地を確保したい、事業用に土地を貸して地代をもらいたいが将来は返してもらうことを前提として貸したい、という事業者と地主のニーズを実現することができる内容です。
事業用定期借地権のメリット
事業用定期借地権を利用する事業者と地主双方のメリットとしては、契約期間の幅が広く事業者側の事業目的と土地の持ち主の土地利用のプランに柔軟に対応できます。しばらく使わない土地でも将来は使う可能性があるという場合でも、この事業用定期借地権を利用して土地を活用できます。
事業者側から見れば事業用の土地を買う必要がなく事業を始められ、賃料を経費として計上できます。広大な土地を買って事業を始めることは資金的にハードルが高いとしても、土地を借りて建物を建てるのであれば初期コストを減らして事業を行うことが可能です。
地主は居住用には向かない土地を貸し出すことができ、事業の内容によっては居住用よりも高い賃料が期待できます。契約の更新や建物買取請求が原則ないことから、地主は土地を更地で返してもらえてすぐに次の土地活用を始めることができます。土地を貸し出すことにより契約の残存期間に応じて土地の評価額が下がり、相続税や贈与税の額を下げることができることから税金対策にも効果があります。
事業用定期借地権のデメリット
地主としては借主の事業がうまくいかず倒産してしまうと賃料が入らなくなります。土地を返してもらい別の人に貸す、別の事業に使うとしても自前で土地を更地に戻したりする必要が生じてしまい、想定していない膨大な費用が必要になることはデメリットといえそうです。
前提として事業者と地主双方とも中途解約ができない、契約終了時には事業者側は建物を取り壊し、更地にして持ち主に返還する必要があることが要件になっている法律です。事業の目的、貸し出しの目的に照らして適切な契約なのかどうかを慎重に検討して契約することが必要です。
まとめ
今回は定期借地権のうち事業用定期借地権の内容、どのようなことに使えるのか、メリットとデメリットをご紹介しました。有効な土地活用のためにできた事業用定期借地権の制度を使って事業を始める、土地活用を始めるときの参考にしてみてください。また、あわせて以下の関連記事もご参照ください。
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