アパート入居者が退去する際、トラブルになりやすいのは原状回復に対する認識のずれ。破損している部分は借主に負担してもらいたいと大家は考えます。しかし、「ネットを調べたら、この原状回復分は支払う義務はない!」と入居者から言われてしまい、困ることもあるかもしれません。今回は国土交通省がまとめた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を照らし合わせながら、原状回復トラブルを回避する方法を解説していきます。
賃借人→ 部屋を借りている人、借り主さん
賃貸人→ 部屋を貸している人、大家さん
賃借人が負担する必要のある原状回復とは?
契約期間内で故意ではないにしろ、部屋を傷つけてしまった・汚れた部分が落ちなくなってしまったものは賃借人負担です。カーペットにコーヒーをこぼしてしまいシミになってしまった、子供が壁に落書きをしたりシールを貼って跡が残った、エアコンの水漏れによって壁紙がはがれる・ボードが腐食してしまったなどが該当します。タバコを吸っていて壁紙が変色した、タバコの匂いが部屋についてしまったなども同様です。ペット可物件にて猫が柱をひっかいた、犬の排せつ物の匂いが取れなくなったなども原状回復費の負担をするのは賃借人です。引っ越し時、引っ越し業者が壁を傷つけた場合も賃借人に原状回復の負担を求められます。実際の現場では、引っ越し業者が傷をつけた場合は保険で賠償が可能なため、賃借人の実質的な負担はないことを伝え、引っ越し業者と交渉してもらうことになります。庭付きの一戸建てやアパートの敷地で雑草が生えていた場合も除去費用は賃借人の負担することになります。
賃借人の負担になるもの | 建具・壁を傷つけた |
床や天井を汚してしまい落ちなくなった | |
カーペットにコーヒーをこぼした | |
子どものらくがき | |
エアコンの水漏れを放置した | |
タバコのニオイが部屋についた | |
ペットのつけたキズ、匂い | |
引越しのときのキズ |
大家さんが負担する必要のある原状回復とは?
経年変化による損耗は、賃料に含まれていると司法は判断します。そのためクロスやフローリング、カーペットが日焼けしたときに張り替える場合、大家の負担で行わなければなりません。また家具やテレビを設置したことでクロスや床材が日焼けしたときも、修繕の費用は大家が負担します。テレビや冷蔵庫を置いたときに、静電気のためクロスが黒ずんでしまうことがあります。家電を置いた場所がカーペットやクッションフロアの場合、重みでへこんでしまいますが、賃借人に原状回復費を求めることはできません。なお賃借人がエアコンを取り付けたときに、壁のビス穴やエアコンの日焼け跡があっても、クロスを張り替えるときは大家負担です。なお画びょうやピンの穴の補修のために、クロスを張り替える場合も賃借人が負担する必要はありませんので気をつけてください。
賃貸人の負担になるもの | クロス・フローリングの通常の損耗 (入居年数による) |
カーペットの日焼け(入居年数による) | |
家具やテレビを設置した時のクロス・床材の日焼け(入居年数による) | |
テレビ・冷蔵庫の静電気によるクロスの黒ずみ(入居年数による) | |
壁のビス穴・画鋲の跡(ボード交換が必要でない程度の場合) |
原状回復と経年変化の関係性
賃借人が負担すべき修繕と言っても全額、賃借人が負担すべきかというとそうではありません。なぜなら賃借人は部屋や付属設備などに発生する経年変化や普通損耗などは、賃料に含まれているためです。そのためすべての修繕を賃借人に負担させてしまうと、経年変化や普通損耗分を二重に支払っていることになってしまいます。
耐久年数はガイドラインで定められていて、クロスやエアコンは6年、流し台は5年、便器やユニットバスは15年となっています。たとえば賃借人がクロスを故意に汚してしまって張り替えに12万円かかる場合、居住期間が3年ならクロスの価値は半分で、賃借人が負担しなければならない原状回復費は6万円になります。では賃借人がユニットバスの風呂桶部分を壊してしまった場合、15年以上住み続けていたら原状回復費はすべて大家負担でなければならないかといえば、そうではありません。なぜなら賃貸物件を借りたときは善管注意義務が生じるため、一般的・客観的に要求されるレベルで使用しなければならないからです。風呂桶は普通に使用していれば割れるようなことはないため、故意であるなしにかかわらず壊れてしまったときには、原状回復費の一部を請求できます。
経年変化・通常損耗の耐久年数 | クロス・エアコン | 6年 |
流し台 | 5年 | |
便器・ユニットバス | 15年 |
ガイドライン上にないことで退去後に賃借人に負担させたい費用は特約に盛り込んで!
退去後の室内クリーニングは、ガイドライン上では大家が負担しなければならない費用です。ですが最近の賃貸借契約に特約として、室内クリーニングは賃借人負担と記載してあることが増えてきています。つまり室内クリーニング以外でも特約に謳っておけば賃借人負担にできるわけです。しかし注意してもらいたいことが3点あります。
・高額過ぎないこと
・賃借人が特約のことについて理解していること
・契約書にサインしていること
なお、特約に記載するときには費用を明確にしておく必要があります。たとえば室内クリーニングは5万円と特約に記載しなければなりません。なお20平米のワンルームマンションの室内クリーニングが5万円だったら、費用が高額過ぎるということで特約としては有効ではなくなってしまいます。
退去時の原状回復トラブルをなくすために
国土交通省の発表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は賃借人と大家がトラブルをさけるための目安に過ぎません。ガイドラインをうまく活用しながら、原状回復費用を負担してもらいたいことは特約に明示して、賃借人に納得して退去してもらえるようにしましょう。